東京高等裁判所 昭和31年(う)499号 判決
被告人 黒上ツカ 外一名
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第一点について。
按ずるに条例は直接に憲法第九十四条によつて認められた地方公共団体の立法形式であつて、同条により法律の範囲内において効力を有するものと定められているほか、条例をもつて規定し得る事項について憲法上特段の制限がなく、もつぱら法律の定めるところに委せられているのであるから、法律に準拠して条例が罰則を設けることは憲法上禁止された事項ではない。そして地方自治法第二条によれば普通地方公共団体たる都道府県及び市町村はその事務として「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること」「清掃、消毒、美化、騒音防止、風俗又は清潔を汚す行為の制限その他の保健衛生、風俗のじゆん化に関する事項を処理すること」等が例示されており、また同法第十四条は普通地方公共団体は右の事務に関し条例を制定し且つ罰則を規定することを認めているのであるから横須賀市が同市議会の議決を経て昭和二十六年十二月二十一日売春に関する諸行為を取り締ることにより善良の風俗を維持し社会秩序の健全な発達を図ることを目的として同市条例第七十三号をもつて本件風紀取締条例を制定公布施行しその第三条において売春を禁止し売春をした者又は約束した者に対し六月以下の懲役又は二万円以下の罰金若しくは拘留に処する旨を規定し又その第七条において売春の情を知つて場所を提供し、又は提供の約束をした者に対し一年六月以下の懲役又は五万円以下の罰金若しくは拘留に処する旨を規定していることはなんら憲法第九十四条地方自治法第二条第十四条に違反しないことは勿論憲法第三十一条に違反するところもない。所論はひつ竟地方自治法第二条にいう「事務」という概念に関する独自の見解に基き本件条例は違憲であると主張するに帰し到底採用することはできない。
(中村光 脇田 鈴木)